岩手県の食品製造業の顧客に、電話やFAXでの受注業務をインターネット注文に切り替える仕組みを提案したことがある。取引先は地元のスーパーからホテル、レストラン、居酒屋チェーンまで幅広く、特に市場が定休日となる毎週水曜日は、休みの間に届いた注文の留守番録音を伝票に書き起こす作業と、床一面に垂れ下がったFAXの整理に追われていた。聞き間違いや書き写しのミスによる注文の誤りも頻繁に発生し、県土の広い岩手では、ミスが発覚するたびに配送車を引き返させるなど余計なコストもかさんでいた。
そこで提案したのが、取引先に専用のWebサイトを案内し、そこから直接注文を入力してもらう仕組みである。よく注文する商品をすぐ選べる機能や前回と同じ注文をワンタッチで呼び出せる機能を備え、電話やFAXより少し割引を適用する特典も設けたうえで運用を開始した。しかし結果は、当初期待していた成果の半分程度にとどまった。Webから注文してくれたのは取扱量の多い中堅から大手の取引先ばかりで、件数としては非常に多い個人経営の居酒屋や食堂といった層はほとんど使ってくれなかったのである。
原因を調べると、個人経営の店からの注文はもともと電話かFAXが中心で、使い終わった紙の裏面に殴り書きで商品名と数量を送ってくる店も少なくなく、それをベテランスタッフが「解読」して入力するのが長年の日常だった。ワンオペに近い体制で店を切り盛りする店主にとって、注文のために厨房でパソコンを広げたりスマートフォンの小さな画面に入力したりすることは、煩わしさ以外の何ものでもなかった。注文をくれる取引先の担当者は清潔な事務所でパソコンを操作しているはずだという思い込みのまま、現場の実態を確かめずにシステムを設計してしまっていたことに気づかされた一件である。
この経験があってから、課題や目標をヒアリングしたうえで業務の中身や取引先の実態を徹底的に調べ、それを行ったうえでなければ製品を提案しないというルールを自分に課すようになった。中小企業にとって、期待した効果が半分しか得られないというのは決して小さな話ではなく、投資が負担になるだけでなく、導入した仕組みをやめたり変えたりすること自体にも相当なコストと労力がかかる。システムを検討する前に、業務やIT資産の「見える化」など、やるべきことがたくさんあると、身をもって学んだ経験である。
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