note5:「誰でも簡単」の罠。ITベンダー時代に見た、ノーコード開発の理想と現実


ノーコードツールには、以前とても期待していた時期がある。巨大なExcel管理表がフリーズして入力データが消えることに悩まされていた頃、ドラッグ&ドロップだけでアプリが組み上がる手軽さに感動し、自分の顧客管理や商談メモにも積極的に使い、支援先の中小企業にも自信を持って導入を勧めていた。

ところが数年後に振り返ると、業務にしっかり定着したのはごく一部の企業に限られていた。多くは契約更新を見送り、結局使われないまま終わってしまった。「あれほど便利なはずなのに、なぜ定着しないのか」という疑問が何度も頭をよぎった。

複数の事例を重ねる中で見えてきたのは、多くの現場で「何を実現したいか」というゴールが曖昧なまま作業を始めてしまっていたという共通点だった。データがどこから来てどこへ渡るのか、誰が何のために入力するのか、運用のルールはどうあるべきか——こうした設計をせずに画面の部品だけを並べても、使いにくいものができ、やがて誰も入力しなくなる。ノーコードであっても、順序立てて考える設計思考は欠かせない。

この経験を経て、今はノーコード導入の相談を受けても即座には賛成しない。「なぜノーコードでなければならないのか」「既存のクラウドサービスで十分ではないか」とあえて問い直すようにしている。社内に論理的な設計ができる人がいる、市販のツールでは対応しきれない業務がある、対象範囲を限定しているといった条件がそろって初めて、ノーコードは強力な武器になる。

「簡単」という言葉が指しているのは操作のしやすさであり、成果が出せるかどうかとは別の話だ。せっかくの投資を無駄にしないためにも、導入前に一度立ち止まって考えることが欠かせない。

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